低温型と高温型の火山ガス
 火山から大気に放出される火山ガスの成分のうち、最も多いガスは水蒸気である。 日本の火山では、90 %以上を占めており、水蒸気以外の火山ガス成分の種類や 組み合わせとその量比は、主として火山ガスの温度に依存している。 一般に、高温の火山ガス中にはHF,HCl,SO2,H2S,CO2, H2,N2,He,Ar,CH4など の多くの種類の成分が含まれており、SO2の割合がH2Sの割合よりも高い。 一方、噴気の温度が低くなるに従って、SO2よりもH2Sの割合が高くなる。 さらに温度が低下すれば、水蒸気以外の成分としてはH2S,CO2,およびN2 などとなる。
 CO2やH2S,SO2は常温では空気よりも比重が大きいガス(dense gas) であるが、dense gasの特徴が顕著になるのはガス濃度が1パーセントオーダーとなる場合である。 硫黄成分に関しては、温度と圧力によってマグマに含まれる硫黄の酸化の化学平衡: H2S+2H2O←→ SO2+3H2が移動するため、 低温型火山ガスではH2Sのまま多く含まれ、高温型火山ガスでは圧力低下によって 主にSO2に変わる。 低温型火山ガスが多く放出されるのは、火山活動が静穏化した火山においてである。 そのような火山では活動火口からのガスの放出量が減少し、主火口以外の山腹や山麓に新たに生じた 噴気口群からも火山ガスを放出するようになり、その成分は低温型の特徴を示すようになる。 このようなガスが大気中に放出されるまでの間に常温まで冷却された場合、 水蒸気のほとんどは凝縮して液滴となるため、H2SやCO2などのガス成分は濃縮され、 著しい高濃度となる。H2Sを含んだ冷たい空気は、くぼ地や谷、風のないときは わずかな低地にも溜まり、中毒事故を引き起こす。なお、CO2による死亡事故も 報告されているが、通常の大気中にも350 ppmほど含まれているのでバックグラウンド値 が大きく、一般の火山においてはあまり研究が進んでいない。
 一方、桜島や三宅島などのような活動が活発な火山は、SO2を多く含む高温型 の火山ガスを火口から集中的に噴出する。放出された火山ガス気塊の密度は、 含まれるdense gasの濃度よりも温度で大きく変化する。高温型火山ガスの場合、 周囲空気よりも十分に温度が高く、気塊中でSO2が占める割合は小さい。 そのため、風が強くない場合には、火口から放出された高温型火山ガスは噴出の速度 や周囲空気との温度差による浮力のため、周辺大気とバランスする高度まで周囲空気 を取り込みながら上昇する。このような状況下では、分子拡散よりもさまざまな スケールの乱流拡散が支配的であるため、SO2の分子量は空気の平均分子量の2倍以上 あるが、下にたまることはない。

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